手話通訳にとって一番大切なこと
先日、自治体の登録手話通訳試験を受けました。
ここに引っ越してきてからもう5年はたちますが、今まで仕事のタイミングが悪くて受けられなかったんですよね。今回ようやく受験できました。
これでも手話通訳士なので一次試験は免除され二次試験からです。
落とされるとしたら一次の筆記試験だと思っていたのでほっとしました。10年程前に住んでいた自治体の試験を受けたときも、
・全日本ろうあ連盟の理事長(?)
・東京都聴覚障害者連盟の会長
・○○区の聴覚障害者協会の会長
・○○区の手話サークル連盟的なやつの会長
これらの名前を答える問題、すべて空欄で提出して落ちましたからね。いや、他に理由があったのかもしれませんけど(面接時上から目線だったなど)。
なお上記の回答は今もわかりません。
さてさて、二次試験は音声聞いて通訳、三次試験は面接です。
まずは二次試験、番号を呼ばれたので指定の部屋に入りました。緊張はほとんどありません。リラックスして面接官たちを一瞥し、微笑み、指定の場所に立ち聞こえてくるだろう問題文を待ちます。
『ザザッ・・これから・・とう録手話ツウヤク・・の』
音質悪っ!
思わず音の方を見るとラジカセが。ラジカセってなんの略なんでしょう。
カセットテープ・・だと・・。
前世紀の遺物、いわゆるロストテクノロジー。ばかな・・もう21世紀に入って20年経とうとしているのに・・どういう流れで「カセットテープでいきましょう」という結論になったのか。謎です。それにカセットテープを再生できるデバイスが役所に残っていることにも驚きです。
内容は特筆することはないので最後の面接へ。当たり障りのない話題から始まり、面接の中盤。あ、以下の会話は手話でなされています。僕の意訳です。
◇◇◇
面接官A(聴者):「ろう運動の経験はありますか?」
ぼく:「ろう運動・・? それは、例えば会社に対して同僚の聴覚障害者に対する勤務環境の改善を求めたとかそういう話も含まれますか?」
面接官A:「広義では含まれますね」
ぼく:(何が言いたいんだ・・?)
面接官B(ろう者):「例えば選挙。候補者の演説等を聞くときに通訳は認められていない。そういう状況で協力してもらえるか」
ぼく:「?? えっと、候補者が演説するときに手話通訳つけるのはNGなんですか? 知りませんでした」
面接官C(聴者):「あの、ここの区では政治関連の手話通訳派遣はNGなんです。なのでそういうときに協力していただけるかということを聞いてらっしゃいます」
ぼく:「失礼いたしました。もちろん本業があるのでいつでもとは申せませんが、可能な範囲で力になれたらと思っています」
◇◇◇
試験が終わってしばらく経ったあとに気づいたのですが、これって要するに
「必要であればボランティアで通訳をする覚悟はあるのか」
ということを聞いているのだと思います。
正直言って、僕はまったく気づきませんでした。だってそんなこと想定すらしていませんからね。今回試験を受けた理由はいろいろありますが、一番の理由はヒマな時間に通訳してお小遣い・・というゆるいものですからボランティアなんて考えたことなかったです。いや通訳内容がよほど面白かったり、家族の依頼なら無給でもやりますけどね。
通訳を通じてろう者が社会参加できることは喜ばしいし、自分の技術が役に立つなら利用してほしいとは思います。僕のほうだってろう者特有の考え方、文化、手話という言語に触れて知的好奇心を満たしているのですから。なんというか、戦友的なポジションですかね。
なのでボランティアと言われると素直に「え、なんで?」って思います。
僕は今まで自治体だろうと民間だろうと個人レベルだろうと、しかるべき技術があればどこでも通訳としてやっていけるものだろうと思っていました。ローカルルールはあるだろうけど、通訳技術の幹がしっかりしていれば合わせることは難しくないだろうと。あ、これ、僕の話じゃないですよ?笑
でも、今回の経験を通して必ずしもそうではないのだな、と痛感しました。
通訳技術よりも地域への献身が求められることもあるのです。自分は地域のろう者に育てられたから、手話を教わったから・・だから恩を返さなければならないんだ。だから低賃金だろうと無給だろうと通訳をしなければ、みたいなね。
僕は地域のろう者に手話を教わったわけではないのであまりピンとこない思想ですがそういう考え方が地域の通訳活動を支えてきたのでしょう。その思想自体は尊重されるべきだと思いますが、仕組みはちょっと歪なんじゃないかしら。
というわけで、たぶん、落ちるでしょうね。
勉強になりました・・
追記
と思ってたら受かってました。なんということでしょう。
本業があるのでガチガチにコミットはできませんが、ゆるめに参加していきます!