手話通訳と音声認識

Googleが新しい音声認識アプリをリリースしました。

現状はベータ版(試作品)とはいえ、現状でもなかなか使えるアプリです。UDトークなどの先発アプリが持つアドバンテージがどこまで有効なのかはわかりませんが、競争が生まれれば品質は向上します。楽しみですね。

 

とはいえ手話通訳業界に多少なりとも身を置く人間からすると、楽しみである反面、とうとう手話通訳は「普通」の仕事として成り立たないまま技術の進歩に追いつかれてしまったのかとも思います。前にも書きましたが、そう遠くないうちに現在の手話通訳者の8割は音声認識に取って代わられるでしょう。

そんなバカな、と考える人もいるかもしれません。もちろんろう者にとって手話は大事な母語ですし、手話でなければ伝わらない人もいる。音声認識の日本語字幕では限界がある、とおっしゃることについてはその通り、異論ございません。それに母語で通訳を受ける権利というのはただの情報保障という意味にとどまらず、ろう者自身のアイデンティティともかかわる問題ですからね。手話通訳の存在は大事です。

ただ、僕が危惧しているのは母語が手話のろう者にとっても、日本語のほうが質の良い情報が得られるかもしれないということ。ようするに音声認識のほうがはるかにたくさんの情報を伝えられれば、第二言語のハンデを加味してもろう者にとっては有用であるのではないかということです。

現在だって話者にマイクをつけてもらって音声認識をして、別に誤字誤変換を適切な文章に直してくれる人間がいたとしたら、それより質の高い情報を手話で出せる通訳が果たしてどれくらいいるのでしょうか。考えれば考えるほど、例えば地域レベルでの通訳現場においては分が悪そうです。もう少ししたら音声認識を併用した手話通訳がトレンドになるかもしれません。

 

さらに言うならどうしても手話でなければならないという人々…手話以外の言語、要するに日本語を身につけていない人のほとんどは高齢者です。当然ですが10年後にはかなり手話通訳のニーズが下がるはず。20年後にはもっとです。手話通訳士は合格者の平均年齢が上がりつつあるので、20年後には老老介護ならぬ老老通訳になっている可能性が高いですね。笑えない。しかし、音声認識の技術はその間も向上し続けます。若いろう者は基本的には日本語を(能力の差はありますが)身につけているので、世の中の通訳がすべて音声認識に切り替わってもそこまで不都合はないように思います。

 

手話通訳はもはや質を高めていくしか方法はないのかなあ。高い専門性を持ったひと握りの通訳が活躍し、それ以外は音声認識でまかなわれる。。

その場合、僕はひと握りのところに入れそうにないので、なんとかして適当なところに潜り込むしかないですね笑