肩たたき不完全マニュアル

肩たたきが苦手なのです。

もちろんマッサージとしての、ではなくてろう者を呼ぶときに使うアレです。

ろう者とある程度コミュニケーションを取れるようになるためには必須といえるこのスキル、僕はなかなかいい塩梅で叩けません。未だに奥様からはダメ出しされます。

家族以外のろう者と話すときはさらに緊張します。肩をたたく前、一瞬躊躇してしまうんですよね。

 

「びっくりした」

「べたべたしてる」

「わかんないよ」

「強すぎ」

「なんか変」

 

僕の肩たたきに対して今まで頂いたコメントの数々です。

つーかほぼ奥様ですね。

なかなか上達しない・・この業界に入ってなんだかんだそれなりに時間経つのに。

 

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そもそも肩を「たたく」という言葉に違和感がある、と奥様。

確かに「たたく」を意識すると強すぎてしまうかもしれません。

娘たちは当然というか、割と上手にできているようです。下の娘はまだ1歳ですが、驚くほど自然にたたけるそうです。はぁうらやましい。

 

聴者、それもろう者と接したことのない人たちからすると肩をたたくという行為はかなりハードルが高いので、あさっての方を向いているろう者をどうやって呼べばいいのか悩んでしまいます。

ペンで肩をたたいてみたり(ひどい)、椅子の背を揺らしてみたり(地震だ!)、目の前を書類でバサバサしたり(むしろよく思いついたな)、などなど・・

相手の身体に直接触れるのはなんとなく失礼な気がしてしまうからですね。

 

もちろんろう者も相手の身体に触れることに対するハードルが低いというわけではなくて、単純に肩をたたくこと=聴者が声をかけることと同じくごく自然な行為なので、「相手の身体に触れる」という行為と切り離して考えているということです。別にろう者はスキンシップが多いとかそういうことはありません。

 

他にも相手を呼ぶ方法として、相手の視界で手をひらひらさせる、照明を点滅させる(一対一ではあまり使いませんが、その場にいる複数のろう者に注目してもらうために利用する)などがありますね。

自分と相手の位置関係によって最適な、というか妥当な呼び方というのは決まっていて、例えば肩をたたく場合は背中側から相手を呼ぶときに利用します。当たり前といえば当たり前ですが、正面でスマホをいじっているろう者に向けてわざわざ後ろに回って肩をたたくことはありません。その場で手をひらひらさせるか、前方から肩をたたくかです。

じゃあ背後から呼ぶときは100%肩をたたくのか、というとそこは僕も自信がなくて、例えば目上の方が前に座っていて、自分(呼ぶ側)が相手の前方に回り込むことが可能な場合はあえて相手の正面側に回って手のひらをひらひらさせる、というのはアリだと思います。これは一種の敬意表現とも言えるかもしれません。座ったまま後ろを向いて会話をしてもらうのは相手に負荷がかかるので、自分が正面に回ることで負荷をこちらが負う、という狙いです。

とはいえ相手が立っていたら肩をたたくでしょう。相手がこちらに身体を向けてさえくれれば、そのあとはお互い負荷がかかることなく会話ができます。ここでわざわざ前に回るのは「なんでわざわざ?」という感じがしますね。この場合、相手が目上でもこちらを向いてもらうコスト(と言っていいのかわかりませんが)は払ってもらってもいいという判断になります。

あとは場の状況。当然ですが講演会のようなものに参加していて、場の「前方」が固定されている場合、相手の前に自分が回ってしまうということはそこからは自分が「後方」を向いて会話をすることになります。そこまでして前に回るってことはちょっと考えづらいですね。

あとは・・素早く情報を伝えなくてはならない場合は目上だろうとなんだろうと背後から肩をたたきますね。

基本は前か後ろの位置関係によって呼び方は決まりますが、

 

・相手が目上かどうか

・呼んだあとに会話がどれくらい続くか

・相手が座っているのかどうか

・場の前方、または後方はどちらか

・緊急性の有無

 

などで総合的に呼び方は変わってきます。

文章にするとややこしいですけど、実際に呼ぶときはそんなに迷うことはないはずですよ。