失われたチェーンメール

ろう者のコミュニティ力の強さはかなりのもので、それは諸刃の剣でもあります。

彼らの「友だちからの情報」への信頼度の高さといったら! 時としてそれは専門家の意見や科学的事実をも凌駕します。特に高齢者に多いように思いますが、僕が高齢ろうと話す機会が圧倒的に多いのでそう感じるのかもしれません。でも、よく考えたら高齢聴者もそういった傾向がありますねえ・・。
要するにコミュニティが狭ければ狭いほど、そしてそのコミュニティへの依存度が高ければ高いほど、そういった盲信に陥りやすい、ということ。そういう意味では、かなり狭い世界を生きている自分も大丈夫だろうかと自省する必要はありそうです(笑)。

さて、ろう文化と言って良いのかはわかりませんが、かつてろう者によく使われていた慣習があります。それがチェーンメールです。
チェーンメール! 前世紀の遺物と思う方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら存在自体を知らない方もいるかもしれません。しかしデフコミュニティにおいては21世紀にもチェーンメール文化は脈々と受け継がれていたのです。
内容は大抵、

 

『〇〇市の△△という聴覚障害者は反社会勢力と関わりがある(もしくは、詐欺集団に所属している、犯罪者であるなど)ので関わってはいけません! この内容を◯人に転送してください』(危険人物パターン)

『〇〇さんは△△大学を出てなんとかでかんとかで今はこんな仕事をしていてろう者にとって素晴らしい行いをしている。この内容を以下略』(偉人伝パターン)

『5月30日の16時からNHKで〇〇の特集がある。これは聴覚障害者にとって必要な情報うんぬん・・』(デフニュースパターン)

 

みたいな内容です。危険人物パターンが圧倒的に多い。デフコミュニティにはどんだけ危険人物が溢れているのでしょう。これみなさん結構転送するんですよね。悪意もなく。
ろう文化として「情報共有」があるのはご存知の方も多いと思います。
よく言われるのが、

 

☆飲み会のときにわざわざトイレに行くことをみんなに周知してから席を離れる
☆退社時、みんなが残業しているのにわざわざ帰宅する旨を伝えてから帰る
☆奥さんがよく寝ているから起こさないように気をつけて家を出たのに、あとで出かけるならひと声かけろと怒られて悲しい気持ちになる(フィクションです)

 

などです。
なぜ「情報共有」を好むのかという話は一旦横に置いておくにしても、無自覚にこのようなことを行うのはあまり良いことではない・・とまあ僕は思うのですが。が、しかし。21世紀も10年が経過し、スマホの普及とともにチェーンメールはめっきり姿を見せなくなりました。なんで??
LINEユーザが増えたからでしょうか。むしろたくさんの人に転送するよりグループチャットのほうが効率よく情報を伝播できるような気もしますが、グループチャットだと情報をさらに転送しようという気が起きず、そこで「共有」して完結してしまうのかもしれませんね。