ろう者と難聴者の違いは…

よく行くお店の店員さん(?)のお子さんが先天性のろうだと聞きました。

僕たちが手話でのんきに話しているのを見たからでしょう、いろいろ聞かれました。当たり前といえば当たり前かもしれませんが、ずいぶん様々な可能性を考えていらっしゃるようでした。

 

もちろん病理的な・・つまり障害の重さがどうかという問題はあるのですが、生まれつき耳の聞こえない子どもは「難聴者」サイドに行くか「ろう者」サイドに行くか選択を迫られることになります。主に親が。

ざっくり、ほんとーにざっくり解説すると以下。

 

「難聴者」:手話はあんまり使わず、人工内耳や補聴器を使って残存聴力を活かして音声言語を覚え、音声言語で他者(聴者)とコミュニケーションをとっていくというスタンス。ろう学校ではなく、一般学校の難聴クラスとか行く。星の金貨とかトヨエツはこっちだと思います。見てないけど。だって一般の役者がろう者演じるの無理だし。

 

「ろう者」:手話を覚えて、他者と手話でコミュニケーションを取る。聴者との会話は筆談などを利用する。声はあんまり使わない。行動様式が聴者よりはろう者向けになる。ろう学校に通う。聴者社会ではなくデフ・コミュニティを基盤としている。手話のできない聴者の友達は少ないか、いない。

 

分けてはみましたが、これは杓子定規に分けられるものではなく、あくまでも傾向と思って頂ければ良いと思います。育ってきた環境が違うから好き嫌いはしょうがないのです。

幼稚部から高校卒業までろう学校に通っていても母語は日本語という人もいるでしょうし、難聴者として生きてきたけれど手話を覚えてマスターした人もいます。手話めっちゃ使いたいけど環境として手話を使うところがないから普段は音声しか使わないひともいるでしょうし。

このふたつは相反するものではありません。ろう者らしさも、難聴者らしさもどちらも持っている人もいます。それにどちらが良いというものでももちろんありません。

タクティクスオウガのカオスフレームのようなものと思ってくれれば(わかりにくいよ)。

 

僕の観測範囲だと、難聴者サイド・・というより難聴者ゲージが高く、ろう者ゲージが低い方はストレスを抱えて生きている人が多いように思います。しかし、比較的経済的には恵まれている。ろう者ゲージが高く、難聴者ゲージが低い方のほうが楽しそうに生きていますが、お金はなさそうです(笑)。

 

難聴者サイドは言ってみれば、聴者から聴覚が欠落あるいは欠損した状態、と言えます。ベースはあくまで聴者なのです。

結局(多数派である聴者の)社会に合わせて生きていこうと思えばいろいろなところで消耗しなければならず、結果としてストレスを抱え込んでしまう。ただ自分の能力を高めて聴者社会で戦い、結果を出せれば聴者並の昇進や昇給もある、って感じですか。あとは企業がそもそも「難聴者ゲージが高い」の人材を求めているんですよね。そりゃー聴者からすれば筆談よりは聞き取りづらくても声でコミュニケーションとったほうが楽ですもん。

 

さて、ろう者サイドのほうですが、基本的に彼らは聴者とは適当にやっていきゃいいよ。仕事なんて、言ってみれば出稼ぎ。俺はあくまでデフ・コミュニティで生きていくんだーという感じです。ちょっと言い過ぎたかな。

彼らは聴者社会とは適度に折り合いをつけてやっているのでそれほどストレスなく生きているのではないでしょうか。ただそうなるとモチベーションの問題なのか文化的摩擦が起きているのかは知りませんが、あまり仕事で昇進して高給取り! みたいな人は少ないような気がします。とはいえ法定雇用率もあって大企業に勤めてらっしゃる方は多いですけどね。とはいえ面接で声である程度しゃべれないと落とされる企業はあるみたいですよ。

 

それにしても僕より歳上・・40歳以上の方はわりと難聴ゲージが高ければろう者ゲージは低く、逆もまた然りだったのですが、最近はそうでもありません。おまけに若くなればなるほど両サイドを判別するのが難しくなっているように思います。

前にも書いたような気がしますが、両サイドがだんだん近づいてきて、一概に「難聴」or「ろう」というくくりが難しくなってきたのではないか。ほとんどのろう者はどちらのエッセンスも持っています。ただ個々人の中でレシオ(配分)が違うというだけで・・

どちらが良いというわけではないと思うんですけどね。

ただ、普通の両親は子どもが聞こえないとわかったときに、自分の領域に子どもを入れようとする・・つまり難聴者サイドが選ばれやすい環境にあると思います。

ろう者サイドはこんなメリットがありますよ、難聴者サイドだとこういうメリットありますよ、みたいな情報が主に医療関係者からもたらされればいいのですが、現状はちょっと難しそうですね。

 

勝手にいろいろ書いてきましたが、僕はそれなりにろう者と接する機会が多い人間なので、この業界にいる普通の人よりはサンプル量が多いと思います。僕にこのトピックを語れるほどの客観性が備わっていれば、の話ですが。

客観性については自分でもあまり自信がなくて、僕はどっちかというと「ろう者」サイドに肩入れしやすい環境なので、この記事もきっとバイアスがかかっていると思います・・。