手話通訳に必要なこと

まだ10代のころ、地域の手話サークルや講習会に通っていたときにベテランの通訳さんが

「手話通訳は常に世の中に対するアンテナを張っていなくてはならない。新聞だろうとテレビだろうと女性週刊誌だろうと貪欲に吸収する姿勢が大事」

ということをおっしゃっていました。

当時から決して真面目なメンバーとは言えなかった僕は気のない返事をしていたのですが、同時にそれってどこまでアンテナを張ればいいんだ? と思ったことを覚えています。「装苑」や「ウォールストリート・ジャーナル」も読めというのでしょうか。

もちろんそんなわけはなくて、通訳現場などで出る雑談を理解して通訳するために必要ということなのでしょう。それにしたって女性週刊誌を読むのは苦行すぎますがね。

新聞や週刊誌、テレビを見るのももちろん情報収集としては悪くないのかもしれませんが、「通訳だから」見るという行為はコストの割に得られるものが少ないと思います。そんな雑談が出るかどうかなんてわからないですし。

 

僕の場合、ニュースはYahooのヘッドライン以外見ないので、確かに通訳現場で時事ネタがわからないことがありました。しかしそれは極めて稀な状況です。おっさんが物事を野球に例えて話すことのほうが多い(あれって女性や若い人はわからないですよね)。まぁ、所詮は雑談なので適当に合わせればいいだけです。なんならその場で相手に聞いたりします。こんな考え方をしていると顰蹙を買いそうですね。すみません笑

 

そもそもベテランの通訳が言った情報ソースってすべてが受け身なんですよね。こちらで情報を選べない。報道されるニュースのほとんどは心温まらないような内容が多いので、見てるとこちらの気分まで暗くなります。そういう情報はなるべくシャットアウトしたい。

子どもが虐待された、なんてニュースのディティールを知って何の得があるのでしょうか。いやマジで。やだやだ。

 

そう考えるとやはり手話通訳は主婦の仕事という認識だったんでしょう。フルタイムで働いて、子どもが小さくて、という人にテレビを見たり女性週刊誌を見るヒマはないように思いますが。

周りの話を聞くと、登録通訳はその責務にフルコミットしなければならない、という地域もまだまだ多いようです。ろう協のイベントは必ず出席、講座にもすべて参加して通訳技術を研鑽せねばならない、みたいなね。冗談でしょ? それで生活できるならいいんでしょうけどね。働きながら通訳をする人がいたっていいし、通訳一本で食っていくのもよし、はたまた自分の自由になる時間の範囲で通訳活動を行うもよし、と色々なかたちがあったほうが健全だと思いますけどねえ。

 

まぁ僕は自治体の登録通訳に受かってから語ったほうが良い、というかまずは試験を受けてから語るべきですね。結婚前に住んでいた地域で一度受けたことがあるのですが、ペーパーテストが難しくて難しくて・・だってそこの地域のろう協の会長さんの名前や、手話サークル連合の会長さんの名前を問われるんですよ。知らんがな。

逆説的に考えれば、通訳技術よりは地域へのコミット力を問われているのかもしれません。というより、地域で育てた通訳以外は登録させたくないのかもしれません。単純な通訳技術で僕が落とされることはちょっと考えにくいし・・(個人の感想です)。しかも若い男性とくればレアキャラなのに。

 

しばらくあと、仕事で僕が名前を答えられなかったろう協の会長さんにお会いする機会がありました。雑談しているときに、以前受けたとき不合格だったのはなぜ? と軽く聞いてみたら苦笑いしながら「ワシにはわからん」とのこと。いやいやあなた面接のときいましたよね?笑 やはり見えない力が働くのか・・